2006年夏のワークキャンプ

鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリ

チーフコーディネーター 石橋弘美(川村学園女子大学3年)

【開催地】 (財)日本野鳥の会 鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリ (北海道阿寒郡鶴居村字中雪裡南)
【スケジュール】2006年8月28日(月)〜9月3日(日) 6泊7日

◆1日目(8/28)
   午前 釧路駅集合・買出し・昼食
   午後 自己紹介・オリエンテーション
   夜  ボランティアセミナー

◆2日目(8/29)
   終日 タンチョウによる農業被害防止対策1日目
   夜  農業被害対策セミナー

◆3日目(8/30)
   終日 サンクチュアリの駐車場に設置する看板作成
   夜  タンチョウと釧路湿原セミナー

◆4日目(8/31)
   終日 野外セミナー
   夜  野外セミナー振り返り

◆5日目(9/1)
   午前 タンチョウによる農業被害防止対策2日目
   午後 2日間の農業被害防止対策のまとめ
      ザリガニ釣り(移入種駆除)
   夜  懇親会

◆6日目(9/2)
   終日 タンチョウについての学習プログラムの実施・体験
   夜  自然保護の関わり方セミナー

◆7日目(9/3)
   午前 大掃除
      ワークキャンプ振り返り
      解散

【作業報告】
○タンチョウによる農業被害防止対策
<タンチョウによる農業被害の現状>
道東のみに生息する、特別天然記念物として保護されているタンチョウですが、その反面、人里へ進出したことによって農業被害が起こっています。
家畜飼料であるデントコーン畑での食害や牛舎内外での盗食・糞害、収穫地として使用している牧草地での営巣など様々な被害があります。
こうして見るとタンチョウにばかり非があるように思えますが、本を正せば、自然採食地・繁殖地である湿原の減少や、給餌による人やコーンへの馴れなど人間の与えている影響は大きいのです。
湿原が減少している中でタンチョウの数は増えており、狭い生息地域内での個体数の増加も問題となっています。

<今回行った作業内容>
今回は2軒の農場に伺い、作業を実施しました。
@家畜し尿の発酵施設への転落防止
今年に入り、スラリー(家畜のし尿発酵施設)に、タンチョウが誤って入ってしまい、死んだり保護されたりという問題が発生しました。
このため、タンチョウの転落事故を防ぐ、侵入防止用のロープを施設上面に設置しました。直径30m、高さ5mと大規模な施設もありましたが、予定通り一軒の農家の作業を終わらせることができました。

A牛舎内外での家畜飼料の盗食・糞害
タンチョウが一年中生息している下久著呂(しもくちょろ)という地域では牛舎内にタンチョウが侵入し、家畜飼料の盗食や、タンチョウの糞による家畜(牛)への感染症の不安があります。
今回は、ネットによる牛舎周辺の囲い込みと、給餌施設側面に防鳥テープを設置する作業を行い、タンチョウが牛舎の中に侵入するのを防ぎました。
農家のお宅にタンチョウが何羽か飛来しており、湿原などの自然環境ではない場所で、人間の暮らしと隣り合わせになって生活している現状を目の当たりにしました。

○サンクチュアリの駐車場に設置する看板作成
当初は、タンチョウの巣とハンノキの調査を行う予定でしたが、雨天のため看板作りに変更になりました。
ネイチャーセンターにもっと多くの人達に足を運んでもらうため、古くなっていた駐車場の看板を新しく作製する作業を行いました。

○タンチョウティーチャーズガイドの実施・体験
タンチョウティーチャーズガイドとは、タンチョウについて知識のない人に興味を持ってもらうことを目的とした学習プログラム集であり、学校の先生や観察会のリーダーなど指導的な立場にいる方々に利用してもらうことで、さらに多くの人々に普及啓発をしていこうというものです。
このプログラムを今年度中に改訂することになりました。私達は、体験者としてアクティビティを行い、良い点や改善点、わかりにくい点などを挙げていきました。よりよいプラグラム作りに繋がるように、細かい点も意識しながら行うようにしました。

○ザリガニつり(移入種駆除)
在来種のニホンザリガニをおびやかす指定外来生物のウチダザリガニを釧路湿原から抹殺すべく、捕獲作戦を実施しました。

【その他の活動】
 ☆セミナー
クイズ形式で楽しく釧路湿原について学ぶものや、皆で協力し合って意見をまとめるもの、今後どのような形で自然保護に関わっていけるかの意見交換など、いろいろな特色のセミナーを行い、学生同士で様々なことを話し合いました。
特に農業被害対策の話し合いでは、人とタンチョウの共生について時間をかけて話し合うことができ、多くのことを学びました。

☆野外セミナー
レンジャーさんに案内していただきながら、タンチョウの生息している環境とその地域で生活している人々との関係を様々な視点で見聞きし、体感しました。
思わず息を呑むほどの雄大な景色や、湿原への土砂の流入の問題を抱えている場所、給餌をなさっている方のお話など、驚きの連続で興味深いものでした。
中でも雨上がりでの細岡展望台の景色は、時間を忘れていつまで見ていても飽きないほど素晴らしいものでした。

☆懇親会
農家の方や自然保護活動に関わっている方、教育委員会の方など、多くの方々にお越しいただきました。様々なお話が聞けて貴重な時間を過ごすことができました。
また、私達学生が皆で考えた農業被害対策を発表する場も設けていただき、より一層盛り上がったものになりました。

【ワークキャンプ全体】
今回は農業被害対策ということもあり、農家の方のお話を直接うかがう機会が多くありました。そこで、タンチョウと向き合い共生していこうという農家の方の考えや取り組みに触れることができました。人間と、タンチョウやその周りを取り巻く環境について私達自身が理解すると共に、多くの人に伝えていくべき課題だということを痛感しました。

【参加者の声】

山田雄斗(目白大学 人文学部 言語文化学科 3年)

8月28日から9月3日までの1週間、北海道の鶴居村にて「鶴居ワークキャンプ」というボランティアに参加、体験させていただきました。
自分が1番、この「鶴居ワークキャンプ」に参加しようとした理由は、小さいことですが、ただ「タンチョウを見てみたかった」から。正直な話それのみでした。
しかし、実際に参加してみた結果、研修所で参加者全員と共同生活だったのですが、「みんなと共同生活することの難しさ、楽しさ」、タンチョウのことで言えば、「タンチョウとは一体どんな生態をしているのか」、「農家の人たちは、タンチョウによってどういう被害を被っているのか」「また、被害を被っているとしたら、対策は練られているのか」などと、わずか1週間でしたが、タンチョウについてたくさんの事柄を知ることが出来ました。
もちろん、自分はタンチョウの存在は知っていましたが、詳しくは知らなかったので、タンチョウの「イメージ」というものが良い面も悪い面も両方感じ取れたと思います。
たくさん知れた中でも、自分は「タンチョウの生態」に強く関心を抱いておりました。
タンチョウという生物は、「姿」「形」「色」は大体、おおまかにですが想像出来るものだと思います。しかし、生息数や生息場所、種別までは大抵の人はわからないであろうし、知らないと思います。
しかし、そのいろいろなタンチョウについての謎も、この「鶴居ワークキャンプ」に参加したら、タンチョウに関するほとんどを知ることが出来ます。
実際、勉強したあとにタンチョウをこの目ではっきり見えたときの感動は計り知れないものがあり、感涙してしまうほどです。(実際自分はそうでした。)
タンチョウ以外にも、「野外セミナー」というものも存在していて、釧路湿原を観察できる場もあります。
夕日が本当に綺麗です。これは、本当にオススメです。
1週間、「鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリ」の3人のレンジャーさん、前回体験しているチーフやコーディネーターの人達には、迷惑をかけてばかりで申し訳なかったと常々感じています。
それでも、こんな素晴らしい体験をさせていただいたことに感謝もしております。本当にありがとうございました。

上野麻美子( 跡見学園女子大学 マネジメント学部 生活環境マネジメント学科 1年)

私は、ワークキャンプに参加出来て良かったと思います。この活動を通して、積極的に行動したいと思うようになり、強くなりました。鶴居に自分が存在した時間が、かけがえのないものとなりました。
私は、以前から、自然保護のボランティア活動に参加出来る場を探していました。そのような時に、FAネットワークを見つけました。北海道に行ったこともなく、初対面の人達と一緒に活動出来るのかと、不安で一杯でしたが、思い切って参加しました。
ワークキャンプでは、タンチョウが肥溜めに転落する事故を防ぐためのロープ張りの作
業をしました。私自身作業開始早々に、地面との境目が分からずはまってしまいました。ショックで、逃げ出したくもなりましたが、鶴が落ちてしまえば命に関わることなので作業の必要性を痛感しました。
釧路湿原も細岡展望台で見た夕日も、綺麗の一言につきます。タンチョウや蝦夷鹿を始めとする多くの動物を見ることで、自然の豊かさを感じることが出来ました。それと同時にタンチョウの住みかとなる自然が、いつまでも壊れて欲しくないと、願わずにはいられませんでした。
私はワークキャンプの参加に不安な人も是非体験してみることをお勧めします。行って良かったと心から思えるはずです。帰る頃には、北海道を去るのが寂しくなりました。実際に活動してみると1週間なんて短いものです。なんとかなってしまうものです。実は私が頑張れたのは、9名のメンバーの皆さんをはじめ、レンジャーの音成さんや伊藤さん、渡辺さん、そして地域の皆さんのおかげです。鶴居での楽しい生活を、本当にありがとうございました。
感謝の気持ちで一杯です。レンジャーさんや皆さんにまた会えることを楽しみにしています。タンチョウのこと鶴居のこと北海道のことなどもっと学びたくなりました。また機会があればぜひ訪れたいと思います。

☆ワークキャンプ終了後に感じたこと☆(チーフコーディネーター 石橋弘美)
全体を通してメリハリのあるワークキャンプになったのではないかと思います。皆で時間を気にして行動していたこともあり、時間前に準備を完了させ、すばやく移動することができました。特に、朝からよいスタートを切れたことが、その後の心持ちにプラスの影響を与えていました。
また、それぞれのいいところも見えてきて、共に協力して過ごすことができました。誰か一人欠けただけでも、今回と同じワークキャンプにはならないだろうし、それぞれの力が組み合わさって物事をつくっていったのだと感じます。ワークキャンプを終えた後に考えてみると、一人一人の大切さがわかったような気がします。
また、ワークキャンプは、レンジャーの皆様を始め地域の方やFAネットワークのスタッフの皆、様々な面でサポートしてくださっている社会人の方々の協力がなければ実現できるものではないことを強く感じました。

牛舎の周りのネット張り☆ なかなか見やすい看板でしょ?
地域の方のお話を聞ける貴重な時間。 ドキドキの懇親会での発表!
皆!タンチョウになりきるんだ!! 野外セミナー。皆テルテル坊主みたい♪
 
これぞ釧路湿原!!思わず息を呑みます。